nibroll『ROMEO OR JULIET』

nibroll 「ROMEO OR JULIET」

19日、nibroll『ROMEO OR JULIET』@世田谷パブリックシアター
舞台には薄い白幕が帯状に垂れ下がり、それが数層のレイヤーとなって奥行を作っている。そのレイヤーが意味するのはまさに今回のテーマ「境界線」そのものだろう。白幕は時に舞台上から姿を消し、代わって照明が再び境界を形作る、その中でダンスとも演劇ともつかない“動き”が繰り広げられていった。舞台の大きな流れは、トライアンドエラーのようにその都度立ち現れる境界を疑い突き崩していこうというもの。
舞台全面に映し出される巨大でポリゴナイズされたうねる海面*1下、矢内原美邦がいつのまにか現れ、四角い小さなスポットライトにその体を浮かび上がらせながら踊りだす。その後徐々に他の演者も現れ、決して単調ではないリズムを持つ音楽の下複雑に動き回るのだが、その中で顕著に見出されるのは時折演者同士が同期して動くその瞬間で、人の無意識下の外界への同調みたいなものがあまりにはっきりと表現されるものだから僕は観ながらに泣き出しそうになっていた。鼻がここのところずっと調子悪いのもあったからそうしてちょっとぐずりつつも、多分その現象は僕個人の特異なものなんだろうとは思いながら。
プロローグのようにその時間は終わり、その後外界への同期の延長上として外界がより具体化され人に落とし込まれた先、すがりつくように個人と同期するペアが4組、舞台上で動いている。しかしそれもやはり崩れ、舞台は再び複雑な全体性を持ち、個々人が新聞を手にせわしく舞台上を行き来するその景色が表現するのは一見離散し自律しつつも、とある社会の焦点の下迂回する人(の意識)かな。しかしそこで表現される“人”は内部にいるから焦点の存在には盲目的にならざるを得ず、自律した個に相応しい相手を見つけ(たと思い)、その理解が生む閉塞的なユートピアの幸福な空間が次に表現される。もちろんそれも幻想の理解だから、やがてユートピアも消え再び離散する舞台上の人々はそうしてまた次の段階へと、それが一時的な理解に過ぎないことを承諾した上で漸進していく、そのラストで映し出された映像は打ち付ける巨大な水滴(雨粒)と無数の昆虫の対比だった。
一度出来てしまった“境界”(矮小化するのを自覚しつつも言い換えれば、“常識”か。)を常に否定していくその先に何かポジティブな妥協点(若しくはオルタナティブな別の何か)を見出そうという、結論というよりその決断の持つ抽象化する力を自覚しようとするメッセージ。

こうして書いてみればやはり舞台は明解なプロットを持っていて、それは凄く演劇的なんじゃないかと思う。ただnibrollの舞台は前回の『no direction』でもミクニヤナイハラプロジェクト『青ノ鳥』でもそうだったけれどプロットがやたら多い(展開が凄く多い)からいくつか記憶から抜け落ちたとこがあって、ここで書いた構成は舞台のその途中から僕が自身の中で反復と予期を繰り返しつつ再構成した展開に自ら縛られた故に見落としたモノが結構あるってことを書いておく。例えば線の集合が大きな樹を形作った後はらはらと言葉を落としつつ崩れていったとことか、どこだったかもう思い出せない。
とはいえ僕なりに小さく理解は出来たと思う。とても良い舞台だった。『no direction』『青ノ鳥』『ROMEO OR JULIET』と観てきてようやくnibrollというものも分かってきたと思う(矢内原美邦のSept独演『sayonara』はなんだかもう覚えてない)。常にゼロ地点に立ち返ることを強く意識してるな、とか。
観ながら考えていたことの一つに“舞台の価値の歴史性”があって、例えば歴史的に参照される芸術(特に絵画)があるように、舞台も参照性を持たないとなということ。後になって振り返ったときに、もうよく分からないってなってたんじゃもったいない。舞台はビジュアルでは残りづらいから、とりあえず個々の公演内容よりもそのカンパニー/劇団(もしくは公演の、かな。一応。)の位置づけをはっきりさせとこうと個人的に思う。nibrollは恐らくその舞台の情報量の多さが特徴で、それは現代的だし現代的とか意識せずそう表れるとこが面白いんだろう。
だからもしその動きの粗さが否定されることがあったとしても、それはちょっと違うなと思うのは前提にあるのがそもそも精緻さではないからだろう。て、位置づけに全然なってないけど、手懸りとして。
でもポストトーク矢内原美邦が指一本の角度すら気になるようになってきたというようなことを語っていたから今後また変化していきそうで、楽しみ。ただ今回の舞台では彼女の動きは少し不安定だったようでそこが気になりはする。
つらつらと書いてみたけれど最後に、またポストトーク矢内原充志(:舞台衣装)が語った一言をメモ。
「夜を夜と名付けたときに、失うもの」

*1:ここ、凄く美しかった。なによりあの巨大さが良い。