『イコノソフィア』

中沢新一『イコノソフィア』読了。イコンの崩壊した時代(イコノクラストの時代)の中で、過去のイコンが持ちえた意味空間と現代におけるその復権(の可能性)を読み、語り解く架空の講義。
単にイコン(聖画)についてのみ語られるのではなく、例えば“書(=漢字)”や“CG”というような、一見イコンとはかけ離れたテーマに至るまでが聖性に沿って語られていく。ここでの聖性とは単純な宗教性を帯びた思想空間の拡がりではなく、より根本的な人間という存在の在り様から必然的に生まれ出るあらゆる思想の根底にある抽象空間の運動性のこと。それは去勢されざる力に満ちており、その場は様々なトーンがうねりながら世界の生成を促す無限の動体であると中沢は語る。確固たる聖性が存在した時代にはその無限への示唆が様々なイコンに現れていたが、そもそもの聖性が崩壊したこの時代にあって、しかしその無限は決して潰えたわけではなく世界の各所で新たに生まれ出ており、またそのような新たな無限への視線・思考の試みを僕らは始めなければならない、と。
86年に出版された本書は中沢新一らしい美意識に貫かれた言葉で書かれており、その滑らかな言語表現はともすると読む者を上滑りさせるから、どうにかその全てをしっかりと掬い取るべく注意しながら読んでいた。それでも掬いきれない言葉の飛躍と感じられる部分は、中沢の特徴的な個人的体験(意識への“ダイブ”と言えるシャーマン的体験)に裏打ちされている言葉だろうから僕には理解する術もないと諦めながら。
とはいえ本書に収められた様々な言葉の飛躍の在り様=言葉の運動性の在り様を、イコノクラスト時代における抽象空間の無限の運動性の体現への試みの一つと捉えれば、この本は凄く面白い。

イコノソフィア―聖画十講 (河出文庫)

イコノソフィア―聖画十講 (河出文庫)