「プライスコレクション 若冲と江戸絵画」展@東京国立博物館

jakuchu


若冲の画はそれほど強い印象を残さなかった*1。と言いつつ感想を少し。僕はあらゆる日本画に詳しくないけれど、構成のダイナミズムと(部分的にフォーカスされたような)精緻なディティールの描き込みの同居と対比が初期〜中期江戸絵画の良質さだとして、その後、技巧的で繊細な塗りこめられたような空気感が画面の隅々までを満たす空間性へと変わる絵画の流れのようなものがあるとすれば、若冲はちょうどその狭間にあるのかもしれない、と思った。それは安易に表現すれば、構成のダイナミズムは備えたままに極度に繊細な筆致が画面を覆う(:彩色画についてのみ。)っていうことだけれど、その繊細さは単なる写実性というよりも何か別なアプローチが終には写実に肉薄することになったっていうようなものに感じられた。そしてそれが墨の濃淡であり掠れであり、結局はグラデーションなんではないか。例えば紫陽花双鶏図ならば、鶏の裏で粒立つ紫陽花の花弁の同質性はただ背景として明度・彩度を抑えただけとも言えるけど、僕にはその繰り返す花弁毎の微妙な濃淡の振れ幅こそを描きたいがための同質性なのではないかと思えた。けれどもなんせ自分が日本画に疎い故にこれ以上言葉でどうこう出来そうもない。ただ中〜後期の画/画家たちの技巧性と一線を画す若冲の何かを意識してこれからは若冲なり江戸絵画を見てこうと思う。あと本草学とかの社会背景とかも。
と、こんなふうに長々と書いてみた後でアレだけどやっぱり若冲の印象ていうのは大して強くなく、じゃあなにかってのはつまり『光と絵画の表情』ていう特別展示のコーナーで、これは、照明装置を使うことによる「自然光のように変化し作品に表情を与える陰影ある光」のもとでガラスに遮られることなく作品を鑑賞出来るっていうもの。これが素晴らしい。そこにあったのが屏風とかサイズ的にも迫力あるものが多かったってのもあるかもしれないけど、しかし光の違いでああも表情が変わるとは思ってなかったよホントに。特に金箔や泥は暗く暖かい光(夕暮れ時とか、または蝋燭の明かりに近いのかな。)の下では異様な程輝いてみせて、グレアが起きたと(多分)錯覚するほど。また白色もやはり、闇に効果的に浮かび上がる。このコーナーの前では、それまでのガラス越しの作品たちは消え入るかのようで、自分も屏風一双くらい手に入れて朝晩でしみじみ眺めてたいとか普通に思った。まぁそんなことはないだろうけど。


伊藤若冲大全

伊藤若冲大全

↑これ欲しい。でも値段が意味分かんないんです。

*1:「鳥獣花木図屏風」(写真)は別、あれは凄い。「スーパーモダン!」とか言ってる人もいたし。静岡県立美術館の「樹花鳥獣図屏風」はもっと凄そうで、見たい。