TNProbe Salon 石上純也講演会@大林組内3Fホール

妹島事務所出身で有名な石上純也の講演@品川インターシティB棟。石上個人としてのこれまでのプロジェクトを一通り聞くことが出来た。その中で、講演冒頭で紹介された彼の修士設計「光の研究」に興味を惹かれる。それは、一定方向に進む光の中でその進行方向へと目をやると(つまりは光が自分から逃げる方向へと目をやると)、そこは真っ暗に見えるという性質( 例:ブラックホールとか。)を利用するもので、まずは内壁が鏡で覆われたリング状の空間に光を一定方向に流す*1ことで、その中を歩いていく人は光(の流れ)に正対したときは目の前に明るい空間が広がるけれども、逆にそれを背にした時は暗闇が目前に壁の如くそびえるというそんな空間をつくる。これは、光が対流していればどんなプランでも可能で、石上は最終的にポーラスに光庭を持つスクエアプランの模型で試していたけれど、その内部を映すccdカメラ写真を見てもかなり上手く明と暗で空間が分化されていた。建築の特に学生はよく「いろんな場を…」と口にするけれど、その意味ではあの光のみによる空間操作は完璧かもしれない。そこには光のマスが現れていた、と、比喩などではなく言いきることが出来る。ただ、あの空間は一体何に使えるのか。まぁ別にアートでも良いか。体験してみたいし。


:「table」
他に、キリンアートプロジェクトに出品された「table」や、月島の住宅案、筑波の住宅コンペ案、Tepco House、神奈川大学の工房、ミラノサローネでのレクサスの会場構成や、NYのYohji Yamamotoのショップデザインなどのプロジェクトが見れた。これらはことごとく、深いところまで(石上にとって)コントローラブルに作られていて、特に住宅案を見ていてそう感じたのだけど、この人は“場面”で考えているんではないかという気がした。それは決して“パース”で、ではなくて、そこでどんなことが起こるか深い細かいところまでを決定していく(=どんなことを起こすかを決定していく)俯瞰的な視点というか、俯瞰的な思考によって建築を作ってるっていう感じ。もちろんその先にあるだろう使い手による使用可能性の柔軟な飛躍ってのを信じてるからこそのその思考だと、質疑時に本人も言ってはいたけれど、場面的→俯瞰的→プラン的→主観/観念的な空間は聞いてる分には非常に面白いけど、あんまり使いたくない(使う側にはなりたくない)。なんというか、色んな許容性が低くて辛いのが目に見える。“ハイレゾ・アート”*2を見てるかのよう。

でもやっぱり見てる分には非常に興味深いので、かなり楽しめた講演だった。2時間超を苦もなく終えた。ちなみにモデレーターとして五十嵐太郎もついてたけど、賛辞を送るばかりでなんだかあまりぱっとしない。そして石上純也の喋りは少したどたどしいものだった。


↑これに「光の研究」が載ってるらしいので興味ある人は見てみたら良いと思う。

*1:曲面の壁を実際は近似された直線で立ち上げ、その直線の壁の中から、光を拡散させてしまう角度を持つ壁だけを選び出して黒面にし光を吸収する面とすることで、一定方向に光の流れる空間を実現する。

*2:『シミュレーショニズム』椹木野衣.