『個人的な体験』/『ネオンと絵具箱』
あまりの寒さに無意識で抵抗しては過ぎた緊張を起こす肉体がなんだか嫌で、もう全て弛緩してしまえば良いのにと思う。強張ったり噛み締めたり震えてみたりして留めようとする熱なんてどうせ不条理にも逃げ去ってしまうんだから。
大江健三郎『個人的な体験』を読む。タイトル負け、いや、タイトル勝ちか。確かに本を書く行為も本に描かれる世界も個人的なものでしかない*1。一次的と言えるイメージを二次的な言語/文字に落とし込む時点で、それはあらゆる他の表現行為(絵でも音でも映像でも。)とは決定的に異なる次元に着地せざるをえない。それゆえ、何かを他者と共有出来る(可能性があるかに見える)一次的イメージに対して、言語を翻訳して初めてイメージ化される文字の世界はその『翻訳』が関わってしまうことで否応なく個人的になる*2。まあでもそれを個への柔軟性というふうに捉えてみれば、だからこそこれだけ本てものが浸透してると言えるわけだけども。
今日は2冊。
ほぼ読み終えていた大竹伸朗『ネオンと絵具箱』も読了。『既にそこにあるもの』のように網羅的でなくごく最近(ここ3年)のエッセイだから、概観するような印象ではなく、今という一瞬の加速度を感じ取れるようでとても面白い。以下抜粋。
ネオン管でボロボロの日本景が描けたら素晴らしいだろうなと思っていた。筆を置くはしから線がネオン管となって重なり合いいっせいに光を放ったら一体どんな風景絵が立ち現れるかを想像した。
アタッシュケースを眺めつつ「ネオン管」と「油絵具」のことを考えた。
そして自分は今までも、またこれから先もずっとその中間あたりをウロウロしながら絵と関わっていくのかもしれないなと思った。
「その中間」がなんだか凄く良い。
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