チゴイネルワイゼン

Eugen Cicero

まだ10枚強しかその音源を持っていないかもしれないけれど、MPSからの音源は今のところ大好きだ。持っているのはそのほとんどがアナログで、一枚だけアプレミディからのMPSのコンピレーションCD。それらの中でも好きなのがEugen Ciceroによる70年録音の『Balkan Rhapsody』。バルカン地方の民謡、特にハンガリーのジプシー民謡を素材に作られたアルバムで、収録曲はどれも良く特にB面は粒揃い、さらにその中でも「Nur ein Madel gibt es auf der Welt(邦題:チゴイネルワイゼン)」が素晴らしい。2〜3年前に随分と安く購入したLPだったけれど、それ以来幾度となく引っ張り出しては針を落とし続けている。邦題の「チゴイネルワイゼン」とはハンガリーのジプシー民謡を元にサラサーテが作り上げた曲のタイトルだがキケロによる演奏はそれとは全く異なるものに仕上がっていて、溢れ出る情感にもうただ浸るしかない、なんて、表現が稚拙過ぎて恥ずかしくなるけれども、ピアノの弾むような音の粒の軽快さとバック(bass、drum)とのバランス、その抑制の効いた密度感は、いつ如何なる状況でもこちら側に滑り込んでくる柔軟性を備えていて、僕はその都度促されるように、どこかとある意識の広がりをどうしようもなくキケロへと明け渡すことになる。
というとちょっと話が大げさな気はするから、平易に言い換えるならばオールタイムなイージー・リスニング性を備えている、といったところか。そのオールタイムなイージー・リスニング性はしかし果たしてどうか(肯定すべきか否か)というのは実は聴き始めたころは疑問だったのだけれど、未だ聴き続けていることを顧みればもう僕はただそれを認める他ないのだろう。
さらにどこまでも安易に語ってしまうけれども、これは日本人が大好きな音(というかメロディーというべきかも、この際)なんじゃないか。だから当然CDもあるだろうと、レコ屋行くたびにこのアルバムのCDを探していたものの今までどうにも見つけられない。そしてどうやら日本ではCD化されていないらしいという事実を数ヶ月前に知った僕は困り果てていて、それでもことあるごとに検索かけてはネットを彷徨うということを繰り返していたらこないだようやく分かったのが、日本でも買えるCDがあったということ。アルバム単体でのCD化がなかっただけで、06年9月に発売された『Swinging The Classics On Mps』というタイトルの、MPS時代のキケロの代表的アルバム5枚が収録された3枚組のコンピレーションCDがあったのだった。そのDisc3に『Balkan Rhapsody』は収録されている。
でそれを昨日注文して今届くのを心待ちにしているよ。ということを書こうとしただけだったのにこんなことになってしまった。なんだか尻すぼみだ。
ちなみにこのCD、Amazonにはないようなので上ではHMVにリンクしてます。