時間封鎖

ロバート・チャールズ・ウィルソン『時間封鎖』。21世紀の恐らくちょうど今頃、突如地球が黒い幕に覆われ、その外部の宇宙とは異なる時間の流れに置き去りにされる物語。現代の諸問題を幾つか摘んで反映させるその物語は、極端に言えば終末論の提示とその先の希望への対峙を描く。スピンと呼ばれる黒い幕に覆われる地球のイメージや、それを実行しただろう仮定体という存在の抽象性、主人公タイラーと心理的には近く物理的・現実的には遠く位置する女性ダイアンとのあまりに寓話的な美しさを保つ関係性など、完結性の高い幾つかの要素を巧みに組み合わせた全体としての面白さを希求しているように思える。
ま、実際面白かった。イーガンと比較すれば(当然)テクニカルな詰めは甘いしヒトそれ自体への思考の深さもそれほどではないと感じたけれど、しかしそういった点とは異なる読み所を探してくれってことなんだろう。(訳者がこの作者を評するためにイーガンを敢えて落とす(ように感じられる)解説はいかがなものかと率直に思うけど。)
というわけで続編『無限記憶』も読むのが楽しみ。しかし全3部作とのことだから、ここではまだ完結しないのだろうな。

時間封鎖〈上〉 (創元SF文庫)

時間封鎖〈上〉 (創元SF文庫)

時間封鎖〈下〉 (創元SF文庫)

時間封鎖〈下〉 (創元SF文庫)