雲1

今、季節は6月で、東京も大阪も福岡も、どこに行ってもけだるい雲が街を覆っていた。そうして雲でもって大きなドームのように塞がれた街は、その内側で何かを溜め込むのか。時折ぱらぱらと水滴を降らせては、それが触れた先を、いわば自身が覆う内側を、触手のようにまさぐっているみたいだ。
でもその内側では何も変わらなくて、みんないつものように歩いて、食べて、生きて、で、水滴を避けて。窓から空を見上げて小さく溜息を吐いては、傘を手にエントランスを抜け、トボトボ、またはテクテク歩き出す。まるでその傘の内側が触りたいんだよっていうふうに、水滴はその量を増して強く傘に打ち付けるけど、それはただ傘を増やしていくばかりで、雲は思う。「やるせない」。
でもそんなときに、そうして傘がどんどんと現れて、やがては街を埋め尽くすその景色をこそ見たかったんだって気づけたら、ちょっとだけほっとするんだ。